はじめに
情シスに配属された新入社員が、実務として一番最初に任されることが多い業務。それが「PCセットアップ」です。IT業界では「キッティング」とも呼ばれます。
PCセットアップとは、購入したばかりの工場出荷状態のPCを、利用者が業務ですぐに使える状態になるように設定し、必要なソフトをインストールする作業のことです。
「なんだ、ただの初期設定か」と思うかもしれません。確かに、作業自体は手順書通りに進めるマニュアル仕事です。しかし、実はこの作業の中に「情シスとして成長するための基礎」が詰まっています。
今回は、現役メーカー情シスの視点から、PCセットアップの具体的な作業内容と、誰もが通る「あるあるミス」、そしてこの業務を「最高のOJT」に変えるための思考法を解説します。
PCセットアップの全貌(システム・設定編)
まずは、PCの中身を作るIT的な作業です。会社によって異なりますが、大まかに以下のような工程があります。
- OSの設定: PCの名前(ホスト名)を会社のルールに従って設定したり、必要なローカルユーザー(管理者権限や一般権限など)を作成したりします。※権限の違いについては非常に重要なので、別の記事で詳しく解説します!
- ネットワークの設定: 社内LANと通信するために、IPアドレス、デフォルトゲートウェイ、サブネットマスク、DNSサーバなどを設定します。(※環境によっては自動付与の会社もありますが、手動で固定IPを割り当てる環境もまだまだ多いです)。
- 社内ドメイン参加: そのPCを「社内のネットワークの仲間」としてサーバーに登録する作業です。これをすることで、会社が規定している様々なPC設定(セキュリティポリシーなど)を強制的にPCへ反映させることができます。
- 会社標準ソフトのインストール: 全社共通で使うコミュニケーションツール(チャット等)やOfficeソフト、社内ポータルサイトへのショートカットなどを配置します。
- 各部署に特化したソフトのインストール: 例えば「設計部のPCにはCADソフトを入れる」といった、部署ごとの個別対応です。情シスの規模や方針によって「情シスがすべて入れる」か「基本セットだけ渡してあとは利用者にやってもらう」かが分かれます。
想像を絶するリアル(物理作業・資産管理編)
IT的な作業だけでなく、実は以下のような「泥臭い作業」もセットアップの重要な一部です。
- 段ボールとゴミ捨ての戦い: 新入社員が入社する時期やPCの更新時期は、数十台のPCを一気にセットアップします。まず立ちはだかるのは「納入作業」です。ノートPC数台とかであれば何も大変なことはないですが、稀にワークステーション(大きいデスクトップパソコンをイメージ)を100台以上納入する場合もあります。こうなると最早引越し業者並みの力仕事をすることになります。次に立ちはだかるのは「段ボールの開梱作業」です。指の水分を持っていかれながらPCを取り出し、大量の段ボールと緩衝材を正しく分別して捨てる。体力とゴミ捨てのスキルが意外と求められます。
- 絶対にミスが許されない「資産管理」: PCは数十万円する会社の大切な資産です。PC本体に「資産管理番号」のシール(テプラなど)を曲がらないように貼り、管理台帳(Excelや専用システム)に、PC名、アドレス、使用者などを一言一句間違えずに登録します。これを怠ると、後々の棚卸しで地獄を見ることになります。
誰もが通る道!絶対に気をつけたい「あるあるミス」3選
手順書通りにやればいいとはいえ、人間は必ずミスをします。ここでは、先輩たちが一度はやらかしてきた「あるあるミス」を3つ紹介します。
① IPアドレスのつけ間違い(社内LANの地雷化) 手動でIPアドレスを設定する環境で、すでに別のPCで使われている番号を設定してしまうミスです。これをしてしまうと、どちらかのPCがネットワークに繋がらなくなります。出荷前に気づけばラッキーですが、気づかずに利用者に渡してしまうと、いつ通信障害を起こすかわからない「地雷」を社内に放つことになります。
② バージョン違いのインストール(共有フォルダテロ) 情シスの共有フォルダには、過去の様々なバージョンのソフトが保管されています。手順書に書かれている「正しい最新バージョン」をしっかり確認せず、古いものを入れてしまうミスです。 最悪なのは、他の担当者が検証中のベータ版などを同じフォルダに置いていて、それを間違えてインストールしてしまうこと。これはもはや「テロ行為」です。あなた自身も、紛らわしいファイルを共有フォルダに放置して「別のミスを生み出すようなミス」をしないよう、強く意識してください。
③ 「これ、誰のPCだっけ?」迷子事件 大量のセットアップをする時は、大きな机に同じ機種のPCをズラッと並べて作業します。この時、PC本体に「〇〇部 △△様」と書いた付箋を貼っておかないと、途中でどれが誰のPCか完全に分からなくなります。ホスト名を見れば台帳と照らし合わせて確認できますが、わざわざ数十台のPCの電源を入れて確認していくのは想像を絶する面倒くささです。付箋は必須です。
ただの作業にしない。セットアップで意識すべきこと
PCセットアップは、基本的に「自分の判断を挟んではいけない」完全なマニュアル仕事です。ミスを防ぐために、あえて判断の余地をなくしています。
しかし、だからといって何も考えずに淡々とロボットのように作業をしてはいけません。
PCセットアップは、「会社のIT環境全体を見渡せるマップ」です。 「なぜこのソフトが全社に入っているのか?」「インストール時のこの選択肢は、社内システムのどんな仕様に基づいているのか?」と、常に疑問を持ち、自分なりに答えを探してみてください。これが、情シスとして会社全体のシステムを理解するための最高のOJTになります。
また、「どうすればこの作業を効率化できるか」を思考する癖をつけてください。 「毎回数十台も手作業でやるのは無駄だ」と気づいた先輩たちが、PCの中身を丸ごとコピーする技術(クローニング)や、クラウドから自動で設定を降らせる技術(Intune / Autopilotなど)を導入してきました。作業者にとどまらず、システムを管理・改善する側へ視座を引き上げるチャンスがここにあります。
おわりに:最初の接客「引き渡し」
すべてのセットアップと台帳登録が終わり、最後に利用者の元へPCを持っていく「引き渡し」。 実はこれ、新入社員のあなたが社内のユーザーと直接コミュニケーションを取る最初の「情シスの顔」になる瞬間です。
綺麗に拭き上げたPCを渡し、初期パスワードや社内のITルールを丁寧に案内する。ここで気持ちのいい対応ができれば、「今年の情シスの新人はしっかりしているな」と、他部署からの信頼貯金が貯まります。
PCセットアップは、ITスキル、資産管理の正確性、そしてコミュニケーション能力まで鍛えられる、情シスの登竜門です。一つひとつの作業に意味を見出しながら、ぜひ楽しんで取り組んでみてください!


コメント